日本語でスクラムマスターの資格について検索すると、認定スクラムマスター(CSM)に関する記事が多く、プロフェッショナルスクラムマスター(PSM)の情報があまりないようです。他にもLSMというスクラムマスター資格等も存在します。
これらの資格の違いですが、各スクラムマスター資格は、認定している団体が異なります。
- CSM(Certified Scrum Master):Scrum Allianceの認定資格
- LSM(Licensed Scrum Master):Scrum Inc.の認定資格
- PSM(Professional Scrum Master):Scrum.orgの認定資格
どれもアメリカの非営利団体ですが、上の2つは日本でも研修が行われているため、日本でもある程度の知名度があるようです。一番下のScrum.orgは日本には進出していないようですが、その代わり研修などがなくてもオンラインで認定が受けられます。
前置きが長くなりました。
本ページでは、その中でもScrum.orgが認定しているスクラム資格のPSM I(プロフェッショナルスクラムマスター1)を受験してみた感想、合格するための勉強方法や試験のヒントについて書いていきます。
※私もPSM Iに合格しておりますので、詳細結果は本ページで公開しております。
PSM Iとは:スクラムマスター資格(PSM I)の概要
PSM Iとは、Professional Scrum Master Iの略で、スクラムの共同開発者であるケン・シュエイバーが設立した非営利団体Scrum.orgが認定するプロフェッショナルスクラムマスター資格です。アジャイル手法のフレームワークであるスクラムについての基本的なコンセプトやルールについての理解を証明する資格です。
PSM Iの主な特徴としては、以下のとおりです。
- 受験言語:英語のみ
- 受験方法:オンライン
- 出題形式:選択問題のみ
- 問題数:80問
- 合格ライン:85%正解
- 受験時間:最大60分
- 受験費用:150USドル(再受験は再度費用が発生)
参照:https://www.scrum.org/professional-scrum-master-i-certification#Details
日本語に対応していないため、他の資格よりも知名度が低いのかもしれません。
ただ、スクラムについての知識を得られるという意味で、かなり有効な資格です。試験の内容もかなりしっかりしています。難易度は低くないため、オンライン完結とはいえ、ある程度の学習が求められます。公式サイトの投稿ページ等では、合格出来なかったという口コミも見受けられるくらいです。
参照:https://www.scrum.org/forum/scrum-forum
スクラム開発者のケン・シュエイバーがスクラムを拡めるために設立した非営利団体であるため、内容的にスクラムの理解度を高められるスクラム資格です。国際的には知名度も高く、筆者が勤めていた外資系ITコンサル企業でも、スクラムの社内研修後に受験を促された試験です。
IT職種の求人情報を見ていても、この資格名が書いていることはありません。ただ、歓迎要件などに「アジャイル経験」「スクラム経験」という記載を目にすることは確実に増えました。企業側がPSM資格を認知していなくても、書類選考や面接の場で、アピール材料にできる可能性は高くなっていると感じます。
料金的なメリットも大きいです。150USドルなので、一般的なベンダー資格と同様で個人でも受けられる料金設定になっています。
ちなみにPSM以外のスクラム認定資格では、研修が必須のようで、受講料がCSMは三日間で30万円、LSMは二日間で20万円かかるようです。これは、個人ではなかなか受ける気にならない料金設定です。個人でスクラム資格を取るなら、PSMが費用的には現実的ですね。
PSM Iは入門レベルにあたり、PSM II、PSM IIIと続きます。
※Scrum.orgの公式サイトにて、PSM I以外の各認定資格について記載されています。以下のリンクより参照可能です。
https://www.scrum.org/professional-scrum-certifications
以上、PSM Iの概要です。
スクラムマスター資格(PSM I)受験の感想と勉強方法
PSM Iを受験した感想
PSM Iを受験して、合格することが出来たため、感想について書いていきます。
問題の難易度
結論としては、予想どおり少し難しかったという感想です。
「予想どおり」と書いたのは、ネット上での受験体験(日本語&英語)の投稿から、ある程度難しい、しっかり勉強しないと落ちるという口コミが多かったためです。
問題の難易度にはかなりのバラつきがありました。特定のスクラムイベントの最長時間を問うような数秒で解答出来る問題もあれば、「プロジェクトのこういう場面で取るべき最適な行動はどれか(2つ選択せよ)」というような、じっくり考えて消去法を用いながら導き出すような難しい問題もありました。
基本的な学習として、スクラムガイドを読んで理解する必要がありますが、ちょっと読んだだけでは解けないような問題も多かったです。
また、公式サイトScrum.orgで受けられるOpen Assessment(模擬問題)や、オンライン上で受けられる個人サイト等の模擬問題を使って学習しましたが、それらの問題とは異なる問題もそこそこありました。
要するにこの試験は、スクラムガイドに書いてあることを丸暗記すれば合格出来るような試験ではないということです。スクラムというフレームワークを深く理解し、現実世界のある特定の場面ではどう行動することがベストなのかということを解答する試験です。(全て選択問題です。)
英語の口コミで、「スクラムガイドをdigest(消化)する必要がある」という投稿を目にしましたが、納得です。
「スクラムガイドを何回か読んでからオンラインなので気軽に受験」というノリだと、合格ラインに到達することは難しいでしょう。
受験時間(60分)について
とにかく解答完了したのが制限時間ギリギリでした。
60分で80問に解答する必要があるため、15分で20問を解答していくペースが必要ですが、毎15分がなかなかギリギリでした。
たまに難しい問題があるとその1問で1分以上考えることも多々ありました。測っていたわけではないですが、3分以上費やしてしまった問題もあったと思います。
たまたまだと思いますが、筆者が受験したときは第1問目の難易度がかなり高かったです。模擬問題などでもお目にかかったことのないような内容で、暗記した知識ではなくいきなり深く考えて導き出すタイプの設問でした。
1問目から難易度が高く相当焦り、このレベルが続いたら無理だと思いましたね(笑)
その後は、難易度のバラつきがあったため、何とかペースを維持しつつ合格することが出来ました。
以上、PSM Iを受験してみての感想でした。
参考:筆者のPSM I受験結果
参考までに、筆者の受験結果の詳細について、共有します。
合格すると、Congratulationsメールが送られてきます。そこに、全体の正解率と出題エリアごとの正解率が記載されていました。
全体的には、80問中73問に正解することが出来ました。エリアごとのスコアはパーセンテージでの記載であるため、問題数までは分からないようになっています。
PSM Iに合格する学習方法
ここでは、筆者がどのように学習したかについて書いていきます。合格出来るかは分からないため、あくまでもオススメの学習方法であることをご理解下さい。
手順の概要としては、以下のとおりです。
- スクラムガイドを読む(原語の英語で)
- スクラムガイドを読む(日本語で)
- Scrum.org公式サイトのOpen Assessmentを解く
- ネット上の非公式の模擬試験を解く
- 最後にもう一度じっくりスクラムガイドを読む(原語の英語で)
どのような手順が効率的かは、個人の英語力やスクラムの理解度に左右されると思います。そのため、自分でベストな手順を考えて見て下さい。分からない方は、上記の手順をオススメします。
それでは、各手順について説明します。
1.スクラムガイドを読む(原語の英語で)
まずは、スクラムガイドを読んでいきます。
Web版(英語のみ)かPDF版があります。
Web版:https://www.scrumguides.org/scrum-guide.html
PDF版:https://www.scrumguides.org/download.html
筆者はPDF版の英語を印刷して、何回も目を通しました。色々書き込めるので、おススメです。
さて、初めて読む場合ですが、特にスクラムの入門者である場合、スクラムの専門用語や概念を理解していないため、なかなか頭に入ってこないかと思います。これは脳の仕組み上、仕方がありません。そのためのファーストステップです。まずは、スクラムというものに慣れていきましょう。
細かいことは置いておき、スクラムの基本的な概念や専門用語に慣れていきましょう。
具体的には、以下のような考え方や用語があることを確認して下さい。(ここでは日本語で書いておきます。)
- 経験主義
- スクラムの価値基準
- スクラムの役割(プロダクトオーナー、開発チーム、スクラムマスター)
- スクラムイベント(スプリント、スプリントプランニング、デイリースクラム、スプリントレビュー、スプリントレトロスペクティブ)
- スクラムの作成物(プロダクトバックログ、スプリントバックログ、インクリメント)
- 完成の定義 などなど
目安としては、スクラムガイドの目次を見て、各項目が何なのか、ざっくりどんなことが書いてあるかが想像出来るとまずはOKかと思います。
必要に応じて、2周してみたり、気になる部分をじっくり読んだりしてみましょう。
2.スクラムガイドを読む(日本語で)
スクラムガイドの内容に慣れてきたら、次のステップとして自分の言語(日本語)で読んでみましょう。
母国語で読む目的は、スクラムの概念や考え方について、より深い理解を得るためです。
ちなみに英語と日本語で読む順番については、どちらからでも問題ありません。筆者は、英語の用語に慣れたかったため、またもともと英語で書かれたものということで、英語から読みました。
そもそも理解できないと意味がないので、英語力に自信がない場合は、先に日本語を読んだ方が良いと思います。
重要な点は、スクラムを確実に理解することと、試験が英語で出題されるため、英語でスクラムの用語に慣れておく必要があるということです。
また本番では、難易度が高い設問も出題されるため、質問を理解する最低限の英語力が求められるということも認識しておく必要があります。試験中に、どうしても分からない単語を辞書で引くということは可能ですが、その分、解答を導き出す時間が減るため注意が必要です。
※Scrum.orgの公式HPでは、Googleの翻訳ツールを使って受ける方法も記載されています。筆者は使用しなかったため、翻訳の質などは未確認ですが、日本語で受けたい方は、以下のページを確認してみて下さい。
https://www.scrum.org/support/using-google-translate-plug-take-assessments
3.Scrum.org公式サイトのOpen Assessmentを解く
以下のリンクより、公式サイトの模擬問題であるOpen Assessmentを受けてみましょう。
https://www.scrum.org/open-assessments/scrum-open
この模擬問題は、本番と似たような画面で、本番と同じ出題形式のため、本番の試験に慣れるには良い教材です。
ただし注意点としては、本番よりも難易度が易しいです。本番では、似たような問題も出題されますが、より難易度の高い問題も出題されます。そのため、このOpen Assessmentで合格点を取れるようになったからといって、合格出来るレベルに達したとは思わないことです。
いずれにしろ、スクラムの基本的な理解を確認するためにはとても良い模擬問題です。問題はランダムに出題されるので、何度も受けて、高得点が取れるようになるまで利用しましょう。
間違えた問題は、解答を見直して、なぜ間違えたかを理解するようにしましょう。これをやらないと模擬問題を受ける意味がほぼありません。
必要に応じてスクラムガイドを見直しましょう。
4.ネット上の非公式の模擬試験を解く
次に、さらに理解を深めるために、ネット上の模擬問題を解いていきましょう。有料の問題もあるようですが、筆者は無料の教材のみで合格したため、本ページでは無料の教材のみ紹介していきます。
一番のオススメは以下の模擬問題になります。必ず利用しましょう。
リンク:https://mlapshin.com/index.php/scrum-quizzes/
Scrum.orgのOpen Assessmentは本番の半分にあたる30問しか出題されないため、本番のシミュレーションにはなりません。
それに対して、上記リンクのMikhail Lapshinさんのサイトでは、本番と同様の問題数と制限時間で模擬試験を受けることが可能です。
出題問題も、本番と同じような問題が多く出題されていた記憶があります。公式サイトのOpen AssessmentとMikhail Lapshinさんの模擬問題はマストです。
追加で以下の模擬問題も、理解を深めるために受けてみました。違う角度での出題もあったため、勉強になります。
Whizlabs:https://www.whizlabs.com/professional-scrum-master-i/
※有料コースですが、一部無料で受けられます。私も、無料分しか利用していません。
The Scrum Master.co.uk:https://www.thescrummaster.co.uk/assessments/professional-scrum-master-i-psm-i-practice-assessment/
Scrum.orgのプロダクトオーナーOpen Assessment:https://www.scrum.org/open-assessments/product-owner-open
筆者の場合、上記の模擬問題で、全て合格ラインに到達するまで学習しました。
大切なことは、問題を解くこと自体ではなく、間違えた問題をきっかけにスクラムガイドに戻って理解を深めることです。その作業を繰り返すことで、試験に合格するスクラムの知識と応用力が初めて身につくと思います。
5.最後にもう一度じっくりスクラムガイドを読む(原語の英語で)
模擬問題を利用して、スクラムへの理解を深めた後、PSM I受験の前にもう一度スクラムガイドを英語で読むことをオススメします。
理由としては、最終的に正解を導く軸となるのは、スクラムガイドに書いてあることだからです。
ここまでで、公式サイトや第三者によって作られた模擬問題を受けてきたかと思いますが、その問題には、スクラムの基本的な原理をベースに応用力を試すような問題が数多く出題されています。
具体的には、特定の場面においてどのような行動を取ることがスクラムのフレームワークの観点から正しいか或いは最も近いかという問題に多く触れてきているはずです。
そのような問題と解説を本番の解答をするための軸にしてしまうと、少し危険です。というのも、模擬問題や本番の試験には、ひっかけ問題のようなトリッキーな問題がまれに存在するからです。
応用力を模擬問題で試した後に、もう一度スクラムガイドを読むことで、解答の軸となるスクラムの基本理念を再確認するとともに、より深い理解を得ることが可能になります。
解答に迷ったときは、スクラムの基本理念に立ち返ることで、限りなく間違った解答を減らすことが可能となるでしょう。
以上、おすすめの学習方法です。
PSM I試験中のヒント
最後に、PSM Iを実際に受験する際のヒントについて書いておきます。
・15分で20問解答するペースを意識する
前述のとおり、60分で80問の問題を解くため、15分で20問解答するということを意識して下さい。60分のタイマーは画面上に常に表示されていますが、必要に応じて、手元にタイマーを用意するといいでしょう。
スマホでもいいですが、100均で買える簡易的なタイマーがあった方が集中が途切れず良いかと思います。
・集中力が持続するように、コンディション調整
当たり前のことですが、60分の試験なので、集中力が途切れないように、ベストなコンディションで臨みましょう。すぐに解答できる問題もありますが、かなり考えさせられる設問も多いため、脳が回転しないとかなり厳しいです。英語が苦手な方は、特に気をつけましょう。
・問題の難易度にはバラつきがあるため、焦らないこと
問題の難易度にはバラつきがあり、すぐに解答できるものと時間がかかるものがあります。焦りすぎないように臨みましょう。
前述のとおり、筆者のように第1問目から考えさせられる難易度の高い問題に当たるかもしれませんが、15分で20問解ければペース的には問題ありません。
焦りすぎると思考の邪魔になります。どうしても解答出来ない又は時間がかかると判断した場合は、ブックマーク機能もあるので、後回しにすることも可能です。
・ブックマーク機能について
試験中は、ブックマーク機能の利用が可能です。
ブックマーク機能とは、設問ごとにフラグをたてておく機能です。
試験画面には、全設問のリストを表示するボタンがあり、そのボタンを押すと全設問の一覧が(ポップアップ画面で)表示されます。その一覧上で、ブックマークした問題が分かるようになっています。必要に応じて、その一覧から特定の問題に遷移可能です。
筆者の場合は、自信がない問題にブックマークをつけていきました。7問くらいつけましたが、結局1問くらいしか見直すことが出来ませんでした。それくらいギリギリに解答が完了しました。
・試験開始によるタイマーカウントについて
試験を開始すると、60分のタイマーが始動します。実際に試験のタイマーのカウントが始まる前に、2画面ほど試験の説明画面が表示されます。
記憶ベースですが、以下のような流れだったかと思います。
Startボタン押下 → パスワード入力画面表示 → Startボタン押下 → 試験概要画面表示 → 試験の注意点説明画面表示 → Startボタン押下 → 問題表示(タイマーカウントスタート)
要するに、Startボタンを押しても、タイマーが画面に表示されるまでは、試験は開始されていないということです。落ち着いて説明を読みましょう。
以上、受験上のヒントについて書きました。
最後に
本ページでは、資格の概要と、合格体験と学習方法について書いてみました。
一人でも多くの方が資格を受けるきっかけになり、スクラムを実践する方が増えると嬉しいなと思っております。
また、本記事の学習方法は、英語が苦手な方にとってはかなり苦痛なような気がしています。もし、日本語で理解を深める方法が知りたいという方は、書籍やYouTube動画がおすすめです。
良質なコンテンツを見つけ出すのが面倒くさいという方は、Udemy という動画学習サイトが非常におすすめです。サブスクと違い、コンテンツごとに購入することで、半永久的に利用することが出来ます。私もプログラミングやMBA関連など色々購入してきました。注意点としては、定価で買うと高いので、月に数回実施されるセール期間中に購入すると良いです。ご参考まで。
参考ブログ
以下に、筆者が参考にしたページを掲載しておきます。
サイト主の方、ありがとうございます!
日本語の口コミ
https://www.pickup-everyday.com/2019/07/13/certification1/
https://note.com/mshrwtnb_/n/n45e83d757e9f
英語の口コミ
https://www.scrum.org/forum/scrum-forum/6756/passed-psm-i-98-experience-share